名古屋国税局管内においては、来年平成16年2月より電子申告がスタートします。
政府のe-Japan構想の一環として大々的に導入が決まった電子申告制度ですが、我々税理士の目から見ると、まだまだ色々な問題点があります。以下、主なものを挙げておきます。
- 開始手続きに要する期間が長すぎる…開始届出書を提出してから利用者識別番号等が届くまでの期間について、現在、国税庁では「最長2ヶ月」と言っていますが、これはあまりにも長すぎます。せめて2週間程度まで短縮してもらう必要があります。
- 利用可能時間が短い…当初、電子申告の最大のウリ文句は「年中無休・24時間」だったはずが、決まってみると「平日9時〜18時(平成16年2月16日〜3月15日までは10時〜21時)」と、大幅に制限されてしまいました。要するに、役所が開いている時間よりもたった1時間長いだけです。
本来、平日昼間は仕事等で税務署にも郵便局にも行けない人に大いに利用してもらうはずの制度が、これではほとんど役に立ちません。
システムメンテナンスのための定期的な休みは仕方ないとして(それでも夜中の2時〜6時とかにすべき)、原則「年中無休・24時間」にすべきです。
- 申告の証明が受けられない…通常、紙の申告書を提出した場合は、控の申告書に日付の入った収受印をもらうことにより、申告したことの証明になります。個人事業者や法人の場合、融資を受ける際にこの収受印の入った申告書の写しの提示を求められることが少なくありません。
電子申告の場合、画面上に受付完了のメッセージが出力され、個別の「メッセージBOX」なるものにデータが保管され、自分のパソコンにダウンロードすることもできるそうですが、あくまで自分のパソコン上で確認できるにすぎません。
金融機関等の第三者に対して証明するためには、納税証明を取るしかないことになりますが、所定の手数料がかかります。紙の申告書なら10円程度のコピー代で済んでいたものが、電子申告にしたら余分なお金がかかるというのでは納得できません。
- 納税期限の優遇がない(電子納税)…これは個人の確定申告の場合だけですが、現在、振替納税を利用していると振替の時期は通常の納付期限の3月15日より1ヶ月近く後の4月に入ってからなのに対し、電子納税を利用するときっちり3月15日までには納めなければなりません。
振替式なら最初に1回手続きしておけば放っておいても引き落とされるのに対して、電子納税の場合は3分程度とはいえパソコンの操作という手間をかけた上に期限の優遇が受けられなくなるのなら、誰が好んで利用するでしょうか。当然、振替納税と同等かそれ以上のメリットを設けるべきです。
※電子申告と電子納税はセットではありません。電子申告をしても納税は振替納税を利用することができます。
- システムを揃えるのに多くの費用がかかる…電子申告を利用するにはICカードが不可欠です。住基カードは500円程度ですし、元々住民票やパスポート取得等、電子申告以外のことに使う場面が想定されるのであまり問題はないとしても、電子申告には自分(自社)のパソコンを利用するため、カードリーダーが不可欠です。
ICカードリーダーはまだ市場に出回っていません。年明けくらいから徐々に出回りはじめることと思いますが、価格はいくらするのか不明です。1万とも2万とも言われていますが、最低でも5千円くらいはするかと思います。
紙の申告書を提出するための税務署までの交通費あるいは郵送料を浮かすために何千円何万円もの費用を出して道具を揃えようという人がどれほどいるでしょうか? ETC(高速道路利用料金自動収受システム)の二の舞になることは目に見えています。
諸々考えると、不便さばかりが目立ち、今始まろうとしている電子申告・納税制度は、納税者よりもむしろ税務当局側の省力化しか考えていないように思われます。それはそれで、人件費の削減等行政コストの削減につながり、広い意味では国民の利益になることなのでしょうが、今のままでは利用者は非常に少ない結果に終わると思われます。
ETCが料金割引制度の導入(半ば強引な高額ハイカの廃止もあって)でようやく利用者が増え始めたように、電子申告制度も何らかの利用メリット(例えば税額の軽減)がなければ、政府・国税庁のもくろみどおりには広がらないと思います。
※掲載記事は掲載日現在の法令等に基づくものです。その後の制度の廃止・変更等には対応していませんので、ご注意ください。